The Trial of Christine Keelerとプロフューモ事件。

キューバ危機と階級とミニスカート。

1960年代の英国はこれらがごちゃ混ぜになっていた。ゴシップや人々の興味は今よりずっとシンプルで、メディアのあおりに乗せられやすかった。

The Trial of Christine Keeler 」は、1963年に英国を揺るがしたスキャンダル「プロフューモ事件」を、渦中の女性の視点から語ったドラマ。クリスティン・キーラーが内閣の陸相John Profumoと出会ったのは1961年、彼女が19才の時。アスター子爵のカントリーハウスで行われたプールパーティーでのことだった。プロフューモには女優の妻がいたけれど、キーラーと関係を持つ。そのキーラーは同じ頃、スパイの疑いのあるロシア人のイワノフ大佐とも関係があった。キューバ危機で世界が不穏な空気に包まれていた中、ピロー・トークで国家の秘密がロシアに流れていたのではないかというウワサは疑惑にふくらみ、マクミラン内閣を揺るがすほどの事件になる。

キーラーとプロフューモ、キーラーとイワノフの仲介役となったのが、整骨医のStephen Wardだった。富裕層のための医者街といわれるロンドンのハーレー・ストリートに診療所を持ち、金も権力もある友人が多かった。その彼がキーラーを知ったのは、彼女がトップレスダンサーとして働いていたクラブ。彼女を気に入ったウォードは、空いている部屋を下宿として提供したが、家賃は取らなかった。一方、裕福な友人たちにとって彼は便利な存在だった。パーティに彼を招待すれば、必ずかわいい若い女性を伴って来たから。キーラーとその友人は、自分たちとは縁のない世界を垣間見れるということで、誘われれば喜んで出かけて行った。彼女たちが男性たちとどういう関係を結ぼうが、ウォードには関係なかった。

ところが、プロフューモ、キーラー、イワノフのスキャンダルが持ち上がり、ウォードは中心的役割を果たしたとして捜査の対象になる。が、捜査は国家の安全を脅かしたという大きな事件にはならず、売春斡旋容疑でウォードを告発。事件は矮小化されていく。いくら「ウォードから家賃もセックスもお金も要求されなかった」とキーラーが言っても、調書にはひねりが加えられ、「必ず、友人たちが無実を証言してくれる」とウォードが期待しても、誰も証言台に立ってはくれなかった。お金も地位もある友人たちは、いざという時に助けてはくれなかったのだ。連日の尋問とメディアの騒ぎに疲れ、友人と思っていた人たちの心変わりに絶望し、判決が下される前日にウォードは自殺を試み、3日後に死亡する。

ドラマはキーラーの視点から語られ、男性たちとの交流も売春というよりはもっと個人的で、金銭のやり取りも「お母さんに渡してあげなさい(キーラーの母親は、いつも娘に金を無心していた)」というくらいの金額だった。最近日本であった、大学生と代議士の愛人契約騒動よりはずっと純情だった。お金も地位も名誉もある男たちが、はすっぱだけれど世間知らずで、貧乏で、きれいな若い女性たちと遊んだわけだ。そして、触れられたくないことは官邸、警察、MI5が一体となって隠そうとした。

ウォードはキーラーに必ず「little baby」と話しかけるが、今だったらセクハラだと言われて大騒動だろう。男と女が駆け引きを楽しみながら、お互いが欲しいものを手に入れる。そんな時代の最後のあたり。この後、時代はサイケデリック、ミニスカート、マリファナ、反戦運動へと突入していく。この事件があと3年遅かったら、世間はもっとキーラーの味方をしたかもしれないし、メディアに利用されるのではなく利用して、大金を手にすることも夢ではなかっただろう。

友人のお父さんが、ウォードの患者さんだったと知って驚いたのなんの。「腕も良かったし、とてもいい人だった」そうだ。ドラマに関連して、彼に関する記事もいろいろ出てきた。欲のなさそうな人で、キーラーや若い女性にも性的魅力よりは人として興味を持ち、セックスもしたけれど、それよりも友人で、保護者で、相談役だったようだ。整骨医であると同時にアーティストでもあり、王室のメンバーからキーラーまで、いろいろな人のポートレートを描いている。個展を開くほどの腕前だった。

事件については未だに明らかになっていないことが多く、すべてが語られている判事のインタビュー記録が公開されるのは2048年1月1日ということだ。

吉祥子 について

犬と本が好き。2003年より英国在住。 日本に比べると英国のテレビ番組は知恵も、時間も、カネもたっぷりかかっている。見ているうちに日本について、自分について、いろいろ考えることが多くなった。これはそんなワタシの日英考察です。 私は番組の紹介をしたいわけではありません。番組を見ていると、知らなかった英国が見えてきたり、見ていなかった日本が見えてきたりするのです。そこで、私が見て面白いと思った番組や話したいことの糸口になりそうな番組を通して、英国に住んで日頃感じていることを書いてみたくなりました。読んでくださった方が「へ~」と思ってくださればいいなあ、と思って。 このブログが、本になりました!タイトルは「カウチポテト・ブリテン」です。ブログに加筆、新原稿も加え、ブログを読んでくださっている方にも、そうでない方にも、発見のある楽しい読み物になっています。お近くの書店で、インターネットでご注文いただけます。 タイトル:『カウチポテト・ブリテン』 出版社:芙蓉書房出版
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